とにかくこの楽章で難しいのは、メロディーをはっきり響かせることです。ちょうど園田版に書かれているように、あたかもメロディーは右手、伴奏は左手で弾いているように聞かせることでしょう。
本当にこういうふうに弾いてしまえばいいのでしょうか?でも左手が届かなくなっている場所もありますね。園田先生の意図でもないようです。
ここは、通常の記譜の通りに弾くことを考えなければなりません。
しかしこの状態ですと、メロディーは主に小指、16分音符は2-1とか3-1とかで弾きますのでメロディーが伴奏に埋もれてしまいます。さて、どうしたものでしょうか?
ここで手持ちの音源を引っ張り出して片っ端から聴いてみましたが、どのピアニストたちももう一本手があるのではないかと思うほどメロディーを強くはっきりと弾いています。指一本一本を独立して自由自在に動かせる訓練をしてきた人たちならではの技なのでしょうね。
さてそういう訓練をしてこなかった私としては、この曲に関してだけでも小指(主に)を独立して強く響かせる練習が必要のようです。ちなみにこの技術はショパンの「別れの曲」でもラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」でも必要になりますね。ちなみに「月光」の第1楽章もそうでしたね。
思いつくのはコルトー先生がこういう場合に、16分音符をスタッカートで弾く練習を勧めていらしたことです。これは練習としては比較的楽です。ちなみに先生は逆パターンも練習するとよいようにおっしゃっていたように思うのですが、16分音符だけ普通に弾いて、メロディーをスタッカートで弾こうとするとこれがとんでもなく難しいのです。本来指の独立ができていればどちらも同じようにできそうですが、試してみてください。そうするとこっちの練習もする方が良いのでしょうか?
「月光」の時のように右腕の肘を内側に寄せて弾く方法は、この曲には通用しないようです。やはり指の独立が必要です。
特に、初っ端からそうなのですが、伴奏とメロディが3度離れている(つまり近い)場合は、どちらか一方の音を強く弾くなんてとてもできないように思うのですが、コルトー式にしばらく練習してみたいと思います。
加えまして、メロディにも抑揚がなければなりません。この2つを両立させるのはかなり骨です。ショパンのノクターン第2番の方がずっと易しく感じます。実際のところベートーヴェンがこのソナタを発表したときは少なからず反響があり、アカデミックな筋からは強く敬遠されたそうです。若い音楽家たちは写譜に余念がなかったそうですが、当時としては(ソナタ全体として)前衛的だったのでしょうね。